IoT時代の到来に伴い、より性能の高い様々な電子デバイスが強く求められています。本研究室では、このような時代に応じて、幅広い研究を行っています。
主な研究テーマは以下の通りです。
▶脳型情報処理人工知能用材料・素子
▶高性能な情報記録用材料・素子
▶フレキシブル生体情報センサー等
▶次世代発電素子(太陽電池等)
▶関連基盤技術(ナノ加工、先端材料、薄膜等)
また、本研究室では、海外の著名な研究者と共同研究を行い、最先端の研究を推進しています。
最初に、脳型情報処理人工知能材料・素子(デバイス)の研究の一つの例を紹介します。
脳のように情報を処理する時に、シナプスの結合強度を変化させます。
その変化の回数は非常に多いため、高信頼性の機能材料が必要となります。
しかし、従来材料において、相変化に伴い、5.5~9%の膜厚変化が観測されており、
そのため、素子に大きな内部応力が生じ、次第に素子の中には空洞が出てしまいます。
そうすると、接触が悪く、高抵抗不良となります。
この問題を解決するために、従来材料に他元素を添加し、相変化に伴う膜厚変化のない新材料を開発しました。
従来の材料GeTeでは、加熱することによって、結晶化に伴う内部応力が生じ、多くのクラックが入ってしまいました。
しかし、この材料にNを添加することにより、クラックがなくなったという結果が得られました。
また、窒素添加により、膜厚変化率が最初に従来材料の7.5%から少し変わり、その後ほぼゼロに近づき、最後には6%程度の増加となりました。
この膜厚変化ほぼゼロの材料を人工知能素子に応用すれば、大幅に信頼性を向上させることが期待できます。
次に、高性能な情報記録用材料・素子の研究の一例を紹介します。
これは、大容量情報記録超多値技術の開発です。
IoT時代では、莫大な情報が収集、蓄積、処理されます。
情報量が指数関数的に増加しています。
そのため、低コストで多くの情報を保存できる大容量情報記録技術が必要となります。
しかし、従来の技術では、中間抵抗を得るのは困難であるため、
”0”:低抵抗と”1”:高抵抗の二つの状態がしかできないので、
2値という通常の情報記録素子となります。
そこで、本研究では、相変化材料の特性を活かし、
相変化過程・領域を精密に制御できる多値記録技術を開発しました。
厚さ50nmの相変化制御層を相変化層の上に付け加える素子を提案しました。
プログラミング電気特性を評価した結果、
提案した構造において、中間抵抗を簡単に得ることができ、16値の超多値記録を実証した。
超多値記録技術は、莫大な情報を保存する必要とされるIoT時代で大いに活躍できると思います。
続きまして、フレキシブル生体情報センサー等の研究を紹介します。
IoT時代では、あらゆる情報が収集されます。
そのため、たくさんのセンサーが必要となります。
その中のフレキシブルセンサーの市場は2027年までに76億ドルまで成長するという予想がされています。
センサー作製に用いた従来の印刷法は大型装置が必要で、新規開発に向いていないと考えられます。
そこで、本研究では、新規開発に比較的に容易なスパッタリング法を用い、ナノ粒子抵抗型フレキシブルなセンサーを開発しました。
フレキシブルな基板を折り曲げる状態によって、
電極の間にあるナノ粒子の間隔が変わり、トンネリング電流が増減しますので、抵抗変化が生じます。
これはセンサーの構造の模式図です。また、LabVIEWを用いて、測定システムを構築しました。
試作したセンサーを評価した結果、
フレキシブルな基板を折り曲げる状態によって、抵抗に関係するセンサーの電圧が変化していることが確認できました。
今後、生体情報の取得を試み、将来健康福祉に貢献できると思います。
続いて、次世代発電素子の研究を紹介します。
世界の電力需要が年々増加しています。
発電に多くの化石燃料が利用され、地球温暖化と化石燃料の枯渇といった問題が深刻となっております。
そのため、太陽光などの自然エネルギーを利用した発電技術の開発が急務となりました。
Si太陽電池が近年普及されていますが、変換効率が低いという問題があります。
そこで、本研究では、このSi太陽電池の変換効率を大きく上回ると期待される光レクテナを開発しました。
光レクテナはアンテナ部分と整流部分から構成されています。
アンテナ部分によって光を受信し、受信した電磁波である光を整流部分を通して直流に変えます。
本研究では、シミュレーションによりアンテナ部分を検討した結果、パッチアンテナの指向性が良いので光レクテナに適していることが分かった。
また、レジストを絶縁物として採用したMIM素子を作製し、電気特性を評価しました。
非対称性というダイオード特性を得ることができました。
今後、無尽蔵の太陽光エネルギーを利用し、我々に電力を供給することによって、SDGsへの貢献を期待できます。
最後に、関連基盤技術を紹介します。
ナノ電子デバイス分野において、ナノ加工は基盤技術であり、
ナノ加工技術進歩により革新的な電子デバイスを創出することが可能となります。
量子ドット型太陽電池などの高性能なデバイスの作製のために、
整列したナノ構造の形成が必要となります。
ボトムアップというブロックコポリマーによる自己組織法では、
大面積でナノ構造を形成できるが、ナノ構造が整列されず、ランダムになってしまいます。
一方、トップダウンという電子線リソグラフィーの特徴としては、
簡単に整列した構造を形成できるが、大面積での加工が困難であるため、効率が悪いです。
そこで、本研究では、大面積で整列したナノ構造を形成できるナノ加工技術を開発しました。
最初に電子線リソグラフィーを用い、ポストとガイドラインを作成しておき、その後、自己組織化によりナノ構造を作ります。
我々が、この手法を用い、整列されたナノ構造の形成に成功しました。
この技術を最先端のナノデバイス作製に活用すれば、大幅な性能向上が期待できます。
国際共同研究
研究室では、国際共同研究を積極的に推進しています。
海外の著名な研究機関の研究者と共同研究を行い、大きな研究成果を得ており、
有名な論文誌(ACS Nano, Nat. Commun.等)に掲載されています。
1. アメリカのマサチューセッツ工科大学MITと韓国の韓国科学技術院KAISTと共同研究を行い、
相変化情報記録素子の消費電力を1/20程度に低減することができました。
主要論文: ACS Nano, 7, 2651-2658 (2013)、ACS Nano, 9, 4120-4128 (2015)、Chemistry of Materials, 27, 2673-2677 (2015).
2. 中国の浙江大学ZUと共同研究を行い、第一原理を用い、2D材料を解析しました。
主要論文: International Journal of Modern Physics C, 28, 1750131 1-11 (2017)、Journal of the Korean Physical Society, 66, 1031-1034 (2015).
3. シンガポールの南洋理工大学NTUと中国の電子科技大学UESTCと共同研究を行い、
人工知能素子を開発し、ニューラルネットワークを構築しました。
それを利用し、手書き数字の認識に成功しました。
主要論文: Scientific Reports, 8, 12546 1-7 (2018)、Nature Communications., 6, 7522 1-8 (2015).
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